無くそう、誹謗中傷。

誹謗中傷は犯罪です。しかしなくならない。その原因と解決策を裁判所の判例も交えて考えていきます。

名誉毀損とはどういった行為に対していうのか

みなさまこんにちは。

今回は、名誉毀損とは何かについて、実際の裁判を例にお話していきます。

広く一般的には、名誉が傷ついたら名誉毀損となると認識されているかと思います。

実際には法律的にかなり厳密な文章で、名誉毀損に当たる場合とそうでない場合を区別しています。

この点を裁判が最高裁まで及んだ実際の事件も交えて読み解いていきたいと思います。

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裁判の実例

名誉毀損被告事件」  裁判所  最高裁判所判例集より

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan(URL:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=38704

裁判要旨

1 インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の表現手段を利用した場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきではない。
2 インターネットの個人利用者が,摘示した事実を真実であると誤信してした名誉毀損行為について,その根拠とした資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあることなどの本件事実関係(判文参照)の下においては,上記誤信について,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえない。

 

関連する刑事訴訟法のおさらい

第三十四章 名誉に対する罪

名誉毀損

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

(公共の利害に関する場合の特例)

第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

(侮辱)

第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

親告罪

第二百三十二条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 告訴をすることができる者が天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣であるときは内閣総理大臣が、外国の君主又は大統領であるときはその国の代表者がそれぞれ代わって告訴を行う。

刑法 | e-Gov法令検索より(URL: https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045

 

「確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきではない」って何?

より緩やかな要件って何?

裁判要旨1.より、私も初見ではまず全く理解できなかったこの文章について、ひと目見て、ああなるほどと理解出来たなら、多分司法試験に1発で合格できるのではないのでしょうか?

この裁判で争点となった部分のひとつに、発信された情報が真実かどうかという点があります。

つまり、「寸分違わず絶対に100%正しい」といえる情報ですか?ということです。

誇張したり語弊のある表現があったりしてはダメなんですね。

そして、100%正確である必要があるので、99.9%は、100%より緩やかな要件なのでダメなんですね。

インターネットに流される情報は憶測で書かれたり、あくまで推理の段階で書かれたりするものが多く、100%正しいとは言えないことがほとんどだということは、皆様も既にご承知のことと思います。

さらに、裁判要旨2より、

「インターネットの個人利用者が,摘示した事実を真実であると誤信してした名誉毀損行為について,その根拠とした資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあることなどの本件事実関係(判文参照)の下においては,上記誤信について,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえない。」

とあることや、この最高裁判決の全文から、裏も取らずにしかも一方的に誤った情報を一般公開したら、ダブルパンチでダメですよねということを示しています。

 

「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合」って何?

公共の利害に関する事実って何?

すごく難しい文章に見えるこの条文ですが、平たい文章に直すと、

その情報が広く世間に公開されることが社会的に有意義であり、多くの人がその情報によって助かるのであれば

ということを表しています。

なので、事実無根でしかも人を傷つけるための情報をネット上に書き込む行為は、有意義では無いし、その情報を得ても誰も助からないと判定され、名誉毀損罪が成立するというからくりになっています。

ここで重要なのは、公共の利害に関する事実なのかという点です。

ここでいう公共の範囲とは、一般的な表現をすると、道端を歩いているそこら辺の赤の他人ということです。

 

「その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合」って何?

こういった完全に見ず知らずの赤の他人で、しかも1ミリも利害関係者じゃない人にも知らせることが有益なことなのかが、公益を図ることにあるといえるかどうかの分かれ目になります。

よく、ゴシップを扱う人の口から言い訳として、「俺はちゃんとした情報筋から確証を得て話してるから名誉毀損に当たるわけが無い」という詭弁が出ます。

しかし、この「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合」の部分でアウトなので、いざ裁判になったら、ゴシップを扱う人の方が有罪判決を受けるんですね。

よく、芸能人やYouTuberの過去の交際歴がリークされて炎上することがありますが、この場合も、交際歴をリークする行為が「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合」に入らないので、名誉毀損で告訴されることが多いのです。

だって、芸能人の交際歴なんて知らなくても死なないし、知ったからと言って日常生活に有利になるかといったら、ならないですよね?

これ以外にも、別に一般大衆に向けて知らしめる必要性も義務もない情報なのにも関わらず、プレスリリースとして自社の著名人の名前を出して謝罪させるようなことも、「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合」の観点からみると場合によっては名誉毀損に相当すると考えることもできます

身内の中だけの情報共有で済ませれば良いものをわざわざ一般大衆に公開して、逆に凄まじく炎上しているプレスリリースを見ていると、一体何がしたいんだろうと思う時があります。

一般公開することに社会的な意義があると認められない情報は、むやみに公開することはやめましょう。

そのリリースによって高確率で重大な誹謗中傷に発展することもあり本当に取り返しのつかないことになります。

誹謗中傷を無くしたい側としては、本当にやめて欲しいところです。

 

まとめ

名誉毀損について、裁判の実例と共に解説しましたが、いかがでしたか?

名誉毀損かどうかは、意外と客観的な視点から判定されていることにお気づきの方も多いかと思います。

親告罪なのでという観点から、よく、被害者目線で名誉が傷つけられたと感じるから名誉毀損に当たると誤解されていることがあります。

ですが、法律的には主観的・客観的このどちらから見ても名誉毀損であると認められることが要件となっているようです。

逆に言うと、名誉毀損で有罪判決を受けるということは、それだけ誰の目から見ても社会的に「それはやっちゃダメだよね」ということをしたということを表しています。

そういう観点は、情報発信のあり方を見直す客観的な視点になると思いますので、ぜひ皆様も日常生活に取り入れてみてはいかがでしょうか?

 

余談ですが、法律を理解する上で、裁判の判例を読んだことで、なぜその法律が適用できるのか腑に落ちたと思います。

解釈がいまいち分からない法律があれば、裁判所が公開している判例の文書をみると、とても勉強になりますので、みなさんもぜひやってみてください。

 

それでは今回はこの辺で。

また次回の投稿でお会いしましょう。