VPNでIP偽装しても開示請求でバレる
誹謗中傷の被害を受けた際には、加害者の氏名や住所、IPアドレスなどを開示請求するのがメジャーな対応手段です。
この時、たまに、誹謗中傷の加害者であることがバレないようにVPN(Virtual Private Network)というサービスを使って発信者情報を偽装する輩がいます。
ですが、結論から言うとVPNを使っても誰が発信者なのかは特定できます。
VPNを使った偽装は、特定に時間がかかるだけであって、秘匿目的ではほぼ意味がありません。
むしろ、VPNを使ってまで誹謗中傷の書き込みをしようとする悪質性から、より重い訴訟または刑罰を受けることも有り得ます。
今回はVPN事業者に発信者情報開示請求するために何が要点となっているのか詳しく見ていきましょう。
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VPNって何?
VPNを使うと、ネット上の住所であるIPアドレスを、別なIPアドレスに見せかけることができるようになります。
これによって、本来の端末のIPアドレスが表示されなくなるので、通常よりも発信者情報の特定が困難になります。
めちゃくちゃ極端な話をすると、
- 火星在住の人から送られた手紙を、
- 金星在住の人から送ったように見せる
ということができるんですね。
そうすると、手紙を送られた人は、その手紙を、金星に住んでる人から送られた手紙なんだなーと認識するわけです。
もしこの手紙の内容が誹謗中傷であるとしたら、手紙を送られた人は金星に住んでいる人を訴えることになるでしょう。
でも真犯人は火星に住んでいるので、真犯人としては、疑われているのは金星人だから、自分は訴えられることがないだろうという仕組みです。
ここまで見ると、真犯人を特定する余地なくない?と思われるかもしれません。
しかしこの場合、「金星在住の人が送ったように見せる手伝いをした人が間にいる」ので、この手伝いをした人に、「本当は誰が送ったんだ?」と問いただすことになります。
この手伝いをした人というのがVPN事業者というわけです。
ここでポイントとなるのは、VPN事業者が「開示関係役務提供者」というものに当てはまるか否かという点です。
裁判の判例を元に要点をまとまると、
なら、VPN事業者は「開示関係役務提供者」であるといえ、その当時の加害者の利用情報などを開示請求の対象とできる、といった感じだそうです。
VPN事業者との裁判例はどのくらいあるのか?
この手の裁判結果は、裁判所の判例検索で調べると結構出てきます。
そのほとんどで、原告の訴えが認められているようです。
ITの専門家じゃないと解析できないような厳密で確実な証拠でなければ提出しても認められない、といった雰囲気ではなさそうです。
この点は、VPNを悪用されると誹謗中傷の加害者がVPNのシステムに守られてしまう、という特性を加味している部分も感じられます。
IP偽装をしても「IP偽装手段を使った」ということはすぐにバレる
どんな手段を使ったのかわかれば身元はすぐに割れる
発信者情報をマスクする技術をどれだけ重ねたところで、裁判で発信者情報の開示命令が出されればそのマスクは一瞬にして剥がれることになります。
発信者情報を保存しないサーバーを経由しているから大丈夫という謳い文句で運営されているVPNもありますが、サーバーを物理的に破壊しない限り、データは削除しても記憶領域に残り続けるので、技術的回避手段にはなりません。
その残ったデータを解析対象として発信者情報の開示命令が下されて身元が割れるだけなので、結局のところ、悪用するだけ無駄なんですね。
余談
VPNの本来の存在意義
独裁から表現や言論の自由を守るVPN
ここまで、VPNが悪者みたいな書き方をしてきました。
しかし、当然、VPNの本来の使われ方があります。
それは、表現や言論の自由を守るために使うというものです。
海外では場所によってはネット上での発言が厳しく検閲され、反政府的な書き込みをすると、特定されて逮捕されることも珍しくないのが実態です。
政治に対して意見を述べること自体は表現や言論の自由の範疇であるというのが社会通念であることから、この自由を守るために、発信者情報を秘匿するためのVPNが開発されました。
どの程度機能しているのかはその国の当事者では無いので分かりませんが、この目的でのVPN利用者は割と多いそうです。
ファイル共有ソフトとVPN
また、TorrentやWinnyなどのファイル共有ソフトのサービスを利用するためにVPNが必要になります。
(Torrentは、今日では海賊版の温床となっている節がありますが、本来は著作権的に問題のないファイルを共有するために使われます。フリー素材とか。著作権切れのクラシック音楽とか。)
P2Pという、特定の管理サーバーを介さずに個人の端末同士で通信する方式をとると、サーバーを介さない分だけ通信が早くなるというメリットがあります。
また、たくさんの端末からジグソーパズルのピースのように少しずつデータを集めて、最後に自分の端末でひとつにまとめる仕組みなので、個々人の端末に通信負荷がそこまでかからないというメリットもあります。
ただし、P2P方式の通信ではIPアドレスがお互いに筒抜けになるという点がデメリットになっています。
これではネット上を全裸で走り回るようなものなので、VPNという服を着て個人情報を隠しているんですね。
ちなみに、仮想通貨で使われるブロックチェーンもP2P方式が使われています。
まとめ
IT技術を悪用した誹謗中傷に対しても、法的措置を取ろうと思ったら割と簡単にできることを、ご理解いただけたかと思います。
リアルでもネット上でも何かアクションを起こせば必ず痕跡が残ります。
ネットだから隠し通せるとか、騙し通せると思ったら大間違いなんですね。
なによりも一番大事なのは、誹謗中傷しないことです。
そのためにも、こういったIT知識を身に着けておくことで、誤った知識から誹謗中傷に走ることも防げるかと思いますので、ぜひ覚えておくとよいでしょう。
また、VPNは本来、ちゃんとした利用目的のあるシステムなので、正しく使うことでその利用価値を高めることが出来ます。
昨今はTorrentと合わせて存在悪のように扱われてしまっていますが、システムの善悪を左右するのは利用者の使い方次第です。
どんなものでもそうですが、今後も本来の目的のために使われるよう、利用マナーを守って使いましょう。